課題「次世代半導体微細加工の基盤技術研究開発」内の「レーザープラズマ計測とEUV計測技術開発」


日本発の革新的半導体微細加工技術を目指し、新プロジェクトが始動

「産業のコメ」ともたとえられる半導体。現代社会を支える基盤技術として世界規模で研究開発が進んでいる。国内でも2024年からTSMC熊本工場をはじめ九州各地で半導体関連企業の動きが活発化し、2025年4月には北海道千歳市にあるRapidusの製造拠点IIM(イーム)がパイロットラインを稼働した。

内閣府は「中長期的に我が国が国際社会において確固たる地位を確保し続ける上で不可欠な要素となる先端的な重要技術について」研究開発を推進するため、「経済安全保障重要技術育成プログラム」(通称 K Program)を策定。そのうちの一つに「次世代半導体微細加工プロセス技術」が選ばれ、令和7年度から5年間のプロジェクトが動き出している。

本プロジェクトの中核となる「拠点研究開発」枠では、理化学研究所(埼玉県和光市)を中心とし、極端紫外(Extreme-Ultraviolet: EUV)露光に関連する最先端の技術を有する機関と人材を結集し、次世代半導体技術の更なる発展に不可欠とされる革新的基盤技術の研究開発を進めている。ここで「EUV露光」とは、半導体微細化の要である露光技術の最先端であり、Rapidusにも導入・稼働している。しかしその製品化はオランダASML社のみが達成している。本プロジェクトを通じ、EUV露光技術が抱える問題(莫大な消費電力や数百億の装置価格など)を解決可能な基盤技術を、日本から発信することが期待されている。

本プロジェクトに参画するメンバーの一人が、EUV露光用の光源(EUV光源用プラズマ)の研究を行っている富田健太郎准教授だ。露光に使用する多層膜ミラーの性質から、EUV露光に使用可能な光は波長13.5 nm近辺に限定されている。その光源としては金属(Sn)を摂氏30万度程度に高温化したプラズマが用いられている。詳細は省くが、プラズマの温度や密度を制御し、金属イオン(価数)状態を最適にすると同時に、EUV光が過度にプラズマ自身に吸収(自己吸収)されない状態を達成することが、EUV光出力の高効率化の決め手となる。しかしプラズマは短寿命(100ナノ秒以下)、微小(直径0.5 mm程度)、非定常、非均一であり、さらに秒速数万メートルの高速かつ複雑な流れを持つ。そのため内部の温度や密度の計測は困難を極め、長らく達成されてこなかった。富田氏はこれまで、レーザー散乱法を原理とするEUV光源用プラズマの温度(電子温度)・密度・流速場計測技術を独自に開発し、光源最適化研究をリードしてきた。本プロジェクトでも計測を通じたEUV光源用プラズマの理解や制御を担う役割を期待されている。

EUV光源用プラズマの温度や密度を計測するために独自開発した分光器システムの調整を行う様子。

分野横断的な取り組みで技術革新を狙う

EUV露光はプラズマ技術だけでなく、多くの要素技術の集合体である。例えばプラズマ生成に用いられるレーザー技術の革新は、本プロジェクトの中心課題の一つに位置づけられている。現在EUV露光に用いられているプラズマ生成用レーザー(波長10.6 μmの炭酸ガスレーザー)は、プラグイン効率(電力からレーザー光への変換効率)が極めて低い。新たなレーザーの開発によりプラグイン効率が格段に向上することが期待されている。その一方で、レーザー光からEUV光への変換の効率も重要である。レーザーの開発とプラズマの最適化は、本来は別分野の研究であり、両者が志向する(実現可能な)諸条件は、必ずしも一致するものではない。本プロジェクトはチーム全体のテクノロジー目標(EUV露光技術の革新)に向け、各研究分野のメンバーが協働する取り組みが強く求められている。レーザー、プラズマ以外にもEUV反射用ミラーや、後工程微細加工など、分野横断的な取り組みが実施される本プロジェクトであるが、富田氏は「各分野の日本代表が集うことで、革新的な技術を日本から発信できるのではないか」と指摘する。

プラズマ生成や計測の時間タイミングを調整するための遅延時間発生装置群。1億分の1秒以下の時間幅でプラズマ中の温度・密度構造の時間発展を計測する。

基礎科学の知見を産業にコンバートするための計測技術

K Programの「次世代半導体微細加工プロセス技術」プロジェクトは理化学研究所を中心に“半導体オールジャパン”体制が敷かれている。「この規模の人員、予算のプロジェクト参画は私も初めて。異分野の研究者たちとの共同研究が非常に楽しみです」と語る富田氏。
同時に「プラズマに関する基礎科学の知見を実社会や産業に役立つ技術にコンバートするために計測技術が果たす役割は非常に大きい」と力説する。

北海道大学は2025年4月に「半導体フロンティア教育研究機構」を設置し、半導体人材育成を積極的に推進している。富田氏を通じた本プロジェクトとの関わりが、本学の若手研究者たちの大きな学びの機会となることは明らかだ。「5年間というスピード感が求められる研究にこそ若い力を発揮してほしい」という期待と共に、次代を拓くプロジェクトが動き出している。

*該当する研究は、JST経済安全保障重要技術育成プログラム【JPMJKP24M1】の支援を受けております。


工学研究院 応用量子科学部門
准教授 富田 健太郎