The Detail Matters: Unveiling Overlooked Parameters in the Mechanochemical Synthesis of Solid Electrolytes
Abdulkadir Kızılaslan, Mustafa Çelik, 藤井 雄太, 黄 錚, 森吉 千佳子, 河口 彰吾, 廣井 慧, 尾原 幸治, 安藤 真理子, 忠永 清治, 大野 真之, 三浦 章

言語化の外にあったハンドミリングが次世代電池用固体電解質の伝導度をアップ
材料合成は料理の世界に通じるものがある。再現性を確保するためにどちらも“レシピ”が必要だ。だがそこに「少々」などの曖昧な表現があったとしたらどうだろう。三浦章教授たちのグループが固体電解質の合成にハンドミルを取り入れたアイデアは、その曖昧性から生まれたもの。AI 時代だからこそ「作ってみないとわからない」実証の重要性を語りかけてくる。

合成・構造・特性の密接な関連を解析し新規材料を創出
三浦章教授の構造無機化学研究室は“「合成-構造-特性」の密接な関連”、すなわち何をどのような手法で作り、それによって出来上がった構造がどのような性質に結びついているのかを解析し、その知見を基盤にした新規材料の創出をミッションに掲げている。
研究対象の一つには、液体の電解質を使うリチウムイオン電池に取って代わる次世代電池、全固体電池用の固体電解質があり、その性能向上に取り組んでいる。
世界がカーボンニュートラルを目指す今、自動車業界ではEV向け全固体電池の量産体制も視野に入れている。固体電解質の「合成-構造-特性」研究は全固体電池導入の推進に大きく寄与することになる。
三浦グループの2025年の発表によると、乳鉢に入れた原料の粉末を乳棒で混合する「ハンドミリング」という実にシンプルな前工程を加えることで、ボールミルを用いたメカノケミカル合成後の固体電解質のイオン伝導度がさらに向上することが明らかになった。
同様の現象が複数の固体電解質で確認されており、今は詳細なメカニズムの解明へとフェーズが進んでいるという。

言語化されない定石の外にある発想力が新たな扉を開く
ハンドミリングによる固体電解質の伝導度の向上は、想定外のことから生まれた賜物だと三浦氏は明かす。
無機合成の世界では「ボールミル」と言えば、機械的な混合手法であり、事前に混合するハンドミリングは論文には明確に書かれていないものが多い。ところがあるとき、海外から留学中の研究者が「論文通りにやってみたが違う結果が出た」と相談に来た。「論文通りに?」と確認したところ迷わず頷くが、よく聞くとボールミル前に事前に混合するハンドミリングをしていないことがわかってきた。
なぜか。「我々にとってボールミル合成前のハンドミリングは“言わずもがな”のことであり、それを言語化してこなかった。論文に明記してなかったんです」。そしてその言語化されていなかったからこそ生まれたやり方が、思わぬ正解をもたらしたのである。
同じ工学研究院の中でも久保田准教授と伊藤肇教授の有機元素化学研究室では、それまで定石とされていた溶媒を用いた有機合成の手法を一度脇に置き、無機合成でおなじみのボールミルで試したところ、合成反応速度が約400倍になるという驚きの結果で一躍世界のトップに躍り出た。有機と無機、分野は違ってもどちらも“言わずもがな”の手法から逃れた発想力が決め手になっている。

AI時代にも「作ってみないとわからない」材料科学の世界
現代はLLM(大規模言語モデル)を活用した生成AIが日常に浸透しつつある。テキストベースの課題や疑問は容易に解が得られるようになってきた。だが「書いていないものでAIが学べるものは現状限られている」と三浦氏は語る。
「例えば、料理においても調味料を“少々”加えることが出来上がりに非常に大きな影響を与えるのであれば、それは定量的に記述したほうがいい。それと同じことで研究の世界にも“あえて言語化するまでもない”と思い込んでいることが実は研究進展の障壁になっていることがあるかもしれません」。固定観念の見直しを呼びかける。
次世代電池のための固体電解質のようなエネルギー問題に関する研究は、実社会と直結している。どんなに最高品質のものが出来ても厳しい条件下でなければ合成できず、あまりにも高価格だとユーザーは手が伸ばしづらい。
大規模言語モデル(LLM)を基盤とする生成AIは、日常生活に浸透しつつあります。テキスト形式の質問や問題には、今や容易に回答できるようになりました。しかしながら、「結局はハンドミリングのようなシンプルなものづくりでものをつくらなければ、実用材料になりにくく、それらはテキスト化されていないものが多くある。なので、AI時代になっても材料科学は作ってみないとわからないことが多く、よりテキスト化する努力をする必要が増している」と三浦氏はいう。
AI時代にはますます、実験を通じた実践経験や言語化が重要になると考えています。社会に役立つものをいかに効率よく簡便に作るか、工学研究の使命を共有する彼らとの知の共有にも取り組んでいる。
工学研究院 応用化学部門
教授 三浦 章
